電力会社では,電力負荷の変化にあわせて発電出力を調整して,負荷量と
発電出力が常に均衡するように周波数制御(AFC:Automatic Frequency Control)
を行なっている。深夜・休日などの軽負荷時には現在主に火力発電の出力を
調整することによって,AFCを実施している。しかし,今後原子力発電の比率が
高まると軽負荷時に停止せざるをえない火力発電所が増えると考えられ,
そうなると残りの火力発電所だけでAFCを行なうのは困難になる。
深夜・休日に揚水運転を行なっている揚水発電所は,揚水時に電力系統より
電力を受けるので,独自に制御できる負荷である。しかし,従来の揚水
発電所では一定の回転速度でしか運転できなかった。
回転速度一定の電動機入力電力は一定であるため,揚水発電所では運転台数の
増減による段階的な調整しかできず,周波数調整(AFC)の機能はなかった。
ポンプ水車の特性上,揚水電力はポンプ水車の回転速度の3乗に比例して
変化するため,若干の速度変化に対して大幅な入力変化が行なえる点が注目された。
火力発電所の代わりに揚水発電所でもAFCが行なえるようになると,経済的な
設備運用が可能になると考えられる。
そこで,ポンプ水車の回転速度を自由に調整できる可変速揚水発電機の
実用化が進められることになった。
本研究の背景および目的
可変速揚水発電機は,揚水運転をする深夜・休日などの軽負荷時には,
ポンプ水車の回転速度を可変運転することで,系統の周波数を調整して(AFC),
安定度向上に寄与している。
一方,昼間の発電時には,発電機の効率が最適に
なるように回転子の回転速度を調整しているが,積極的な系統の安定度向上には
あまり利用されていない。しかし,交流励磁制御により回転速度を制御すれば,
有効電力と無効電力を独立に制御できるため,系統の安定度向上に寄与できる
と考えられる。
この可変速機の発電時の制御法として、エネルギー関数法に基づく可変速機の
交流励磁電圧制御法が提案されており、従来の同期機の励磁電圧制御および
可変速機の出力一定制御と比較して第一波動揺を含む過渡動揺抑制に
効果があることが確認されている。しかし、定態安定度に
関してはむしろ悪化するという結果が得られており、過渡安定度
と定態安定度を同時に安定化させる制御手法については未解決のままであった。
過渡安定度の良さを保ちつつ,定態安定度も向上させる設計手法として,
エネルギー関数法を用いた交流励磁電圧制御系の入力部の同期化力を,
固有値感度を用いた固有値制御手法により再設計する手法が
提案されている。この手法により設計された制御器は,
過渡安定度と定態安定度の両方に効果的であった。
しかし,固有値制御は系統のある運転点近傍での線形化モデルを用いた設計手法で
あるため,運転点の変化に対し,その制御性能が損なわれる可能性がある。
また,近年制御の分野で発展の目覚ましい$H_\infty$制御理論を用いた制御手法の
一つであるロバスト極配置法を用いた可変速機の励磁電圧制御法も提案されており,
系統の状態が変化した場合でも,定態安定度に対しても過渡安定度に対しても
良好な制御性能を示すことが確認されている。しかし,ロバスト極配置法は
定態安定度を安定化させる制御手法で,過渡安定度を積極的に安定化させる
制御手法ではない。
そこで、本研究では定態安定度と過渡安定度を同時に安定化させるために
エネルギー関数による制御とロバスト極配置法による制御を組み合わせた
制御手法を提案し、シミュレーションおよび固有値解析によってこの制御効果を
検証する。